2010.06.28 (Mon) 穂坂隆弘「熱狂!香港市場通りパート2」
[最終回]香港で広がる懐古主義 成熟化の表れか
今年、香港で「エコーズ オブ レインボー」というタイトルの映画がヒットした。香港映画といってもカンフーアクション物ではなく、1960年代の香港が舞台の家族の物語だ。ノスタルジー溢れるヒューマンドラマが観客に受けた。
私も近所の映画館で鑑賞した。値段は50香港ドル(約550円)程度と日本に比べ安い。
映画の中での会話は広東語で、字幕は英語だった。不勉強な私は広東語を理解できない。英語も決して得意ではないが、必死に字幕を追った。時々、館内で爆笑が起こるが、会話の内容が分からないので笑えず、少し疎外感を味わった。
とはいえ、やや大げさかもしれないが、芸術作品は言葉の壁を超え観る者の心に訴えかける。途中で不覚にも落涙してしまった。監督の実体験を基にしたストーリーで、8歳の主人公の目を通じて話が展開する。仕事熱心な靴職人の父親としっかり者の母親、優しくて勉強ができスポーツマンでもある高校生の兄とともに主人公は暮らしていた。しかし、兄は白血病で若くして命を失ってしまう。
映画では60年代の香港における市井の人々の暮らしぶりを味わうことができる。夕飯は、家の前の路地にテーブルを出して家族みんなで食べる。子供は隣家の食卓の皿にも平気で箸を伸ばす。台風が襲った時は、主人公の小さな家の屋根は吹き飛んでしまった。
香港の影の部分も描く。お兄さんの同級生のガールフレンドは大邸宅に住む令嬢だった。彼女の家に遊びにいった際に彼は所得格差をまざまざと知り、二人の間に隙間風が吹き始める。病を患い彼が入院した病院では、飲料水をもらうのにもカネが必要。輸血には、新鮮な血と冷凍した血の間で料金が大きく異なり、父親は結婚指輪を質に入れてようやく費用を工面した。
舞台となった香港中心部の商店街は現存する。香港特別行政区政府はこの商店街を取り壊して再開発を計画したが、反対運動に遭い断念した。この映画のヒット自体や商店街取り壊しの反対運動にみられるように、香港では最近、古い時代を見直そうとの機運が高まっている。特に若い世代にこうした傾向が強いという。香港は、古いものをどんどん壊し、新しいものを生み出すことで成長してきた。走り続けてきた香港は今、立ち止まって過去を振り返り始めているようだ。悪いことではないと思う半面、香港の成熟化の表れだとしたら、いささか寂しい気もする。
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「日経CNBCジャーナル」は本号が掲載最終回となります。
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