日経CNBCブログ Caster's Voice

2011.08.31 (Wed) 後藤 浩祐

長期失業者の問題で苦しむアメリカ

30日に発表されたアメリカの8月の消費者信頼感指数は2009年4月以来の低さとなりました。

前回の景気後退(リセッション)の期間は2007年12月から2009年6月まででしたから、この指数はすでにリセッション期間の低水準に逆戻りしてしまいました。

1日に発表される8月のISM製造業景況指数は市場予想では48.5と見込まれています。この指数は一般に50を上回ると景気拡大、逆に50を割り込むと景気後退を示唆する、と言われています。

市場の予想通りに48.5にとどまりますと、2009年6月以来の低水準となり、こちらもリセッション終了時に逆戻りです。

アメリカ景気を二番底に向かわせているのが、住宅市場の不振と雇用情勢の回復の遅れです。

「私たちの経済は今日(こんにち)、半年以上、仕事に就けない人々の割合が半分近くを占め、異常なほど高い水準にある長期失業の問題に苦しんでいる」

「長期的には、失業期間をできるだけ短くすることによって健全な経済が支えられる」

バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は26日、ジャクソンホールでの演説で上記のように述べました。

アメリカでは長期失業者数はいまだに600万人を超え、歴史的に過去最悪水準にあります。


さらに、失業者の平均失業期間も40週間を超え、過去最長を更新中です。40週というのは9カ月以上です。かなり長い失業期間になります。
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リーマンショック後、金融危機でアメリカは711万人の職が失われましたが、その後、仕事に復帰できたのは236万人にとどまっています。つまり、3分の1しかまだ回復できていません。雇用の回復という面では、量的緩和第一弾(QE1)と量的緩和第二弾(QE2)の影響は限定的でした。

厳しい雇用情勢は特に中小企業で続いております。

アメリカでは、人口のおよそ7割が中小企業に雇用されているのですが、その中小企業で雇用の削減が進み、改善がままならない状況が続いています。

特に、下のグラフのように、従業員50人未満の企業や、50人から250人未満の企業が人員を大幅に削減してきたことがわかります。
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中小企業での雇用機会の削減や改善の遅れはアメリカ経済全体に及ぼす影響が大きいです。

アメリカの企業決算の発表が佳境を迎えております。アップルも、グーグルも、インテルも、IBMも、10―12月期は非常に堅調でした。各社とも、売上高と純利益が四半期ベースで過去最高を記録しました。

アメリカのグローバル企業がかつてない規模で稼ぐ一方で、アメリカの貿易赤字は相変わらず膨らんでいます。特にアメリカの中国に対する貿易赤字は増えています。アメリカの対中貿易赤字は昨年、通年で過去最高に達した、とみられています。

アメリカの企業の決算が良いのに、なぜアメリカの貿易赤字は減らないのでしょうか?

興味深い事例があります。アジア開発銀行研究所の報告書によると、アップルの「iPhone(アイフォーン)」がアメリカでヒット商品となればなるほど、アメリカの中国に対する貿易赤字が増えるとのことです。昨年はアイフォーン分だけで19億ドル(1600億円弱)の貿易赤字が増えたとのこと。

これはどういうことかと言いますと、アイフォーンは中国の工場で生産され、アメリカに輸出されています。アイフォーンがアメリカで売れれば売れるほど、中国で増産され、アメリカに輸出されています。貿易統計上は、「中国の輸出」「アメリカの輸入」として、カウントされています。アイフォーンは、アップルというアメリカの会社のブランド品なのに「中国の輸出」として扱われているわけです。

日本の企業も、アメリカの企業と同様に、中国といった新興国で生産委託し、稼いでいます。

ここで、アメリカと中国と日本の3カ国の貿易、つまり、三角貿易をみてみますと、日本は中国に部品や機械を輸出し、中国はそれを加工して、アメリカに最終製品として輸出しています。china3

中国にとって、日本は最大の輸入相手国である一方、アメリカは最大の輸出相手国です。
日本にとって、中国は最大の輸出相手国です。
アメリカにとっても、中国は最大の輸入相手国になっています。

実は、中国の輸出額の何と55.9%(2009年時点)は、アメリカや日本、ドイツといった外資系企業が占めています。つまり、中国に拠点を置く2つに1つ以上の輸出企業が外資系なわけです。

人民元が切り上がり、割高となった製品が世界中で売れなくなって困るのは、こうした中国に拠点を置く外資系企業も同じです。

中国の胡錦濤国家主席が今月18日に国賓として訪米した際、オバマ大統領は人民元の切り上げを求めました。アメリカのメディアも、日本のメディアも、中国に人民元改革を求める論調を強めています。しかし、それが本当にアメリカの景気にとって良いことなのか。人民元の切り上げが世界景気の回復にとって良いことなのか、考えさせられてしまいます。

以下、ご参考まで。

世界一の輸出大国となった中国

中国輸出企業200強 8割が外資系

<中華経済>「輸出大国」中国の実態、輸出の6割が外資系企業―中国

中国における外国直接投資の効果と外資政策の変化

中国企業の国際競争力について

●欧米の株式が2008年のリーマンショック以前の水準に戻っているなか、日経平均は9000円台と、ショック前の12000円を奪還できずにいる。
その背景にはなにがあるのだろうか。

先日、ある機関投資家を取材したところ、「海外投資家はもはやジャパンパッシングではなく、ジャパンナッシングだ。資金は他のアジアの国々に向かっている」と述べた。 通りすぎるほどの存在感もないというわけだ。
少子高齢化で高い経済成長が望めない国、デフレにおびえ円高で苦しむ国、部品は優秀だが製品開発で国際競争力が低下している企業、右肩下がりの給料に節約で対応する国民。 膨大な財政赤字を前に立ち尽くす政府と国民。 ネガティブな状況を挙げたら枚挙にいとまがない。 そうした弱体化した経済を本来活性化させなければいけないはずの国のトップも近年はめまぐるしく変わる。閉塞感も募るわけだ。
ではどうしたらよいのか。
はっきりと言おう。私は「田中角栄」を待ち望んでいる。
グローバル経済で競争が激しいなか、将来を予見し経済を語れ常に前向きな姿勢と実行力を併せ持つ政治家を待望する。 
既得権を排除し規制を緩和することで新規参入を促し、経済を活性化する政治家。 FTA自由貿易協定やEPA経済連携協定を推し進め、恐れずに「同じ土俵で勝負しよう、技術力やブランド力では負けるはずがない」と説得できる政治家。 温暖化に対抗し、スマートグリッドを基本に都市の道路やビルを再構築し、世界に冠たる環境都市国家を目指す政治家。 発想を転換し既成概念を覆すことのできる政治家。
「国を治め、民を救う」、経済という言葉の語源である。
今、経済力のある政治家が求められている。

政府・日銀は15日、2004年3月以来、6年半ぶりとなる円売り・ドル買い介入に踏み切りました。

15日のドル円相場は、介入前には一時1ドル=82円86銭まで円高が進んでいましたが、午前10時半過ぎに実施された介入後は一気に85円台まで円安が進みました。日経平均株価も、トヨタやホンダ、ソニーといった主力どころの輸出関連株を中心に買い戻しが入り、大幅反発。217円高の9516円となり、7月26日以来の上昇幅となりました。

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なぜこのタイミングで政府・日銀は介入に踏み切ったのでしょうか?

考えられる一つ目の理由は、14日の民主党代表選で菅直人首相が再選された後に、対ドルで円が急伸したこと。14日のニューヨーク市場や15日の東京市場では円は1ドル=82円台に突入しました。菅首相の続投に対し、マーケットの投機筋は「円高の洗礼」を容赦なく浴びせました。菅首相は小沢一郎・前民主党幹事長に比べ、為替介入に消極的と受け止められていたからです。投機筋になめられ、さらに円高が進むようですと、政治主導の強いリーダーシップを目指す菅政権の面目も失います。為替介入という断固たる姿勢を示す必要がありました。

二つ目の理由は、アメリカの中央銀行の連邦準備理事会(FRB)による追加の金融緩和の観測がぐっと高まってきたこと。14日付のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の記事によると、ゴールドマン・サックス・グループのチーフエコノミスト、ジャン・ハッチウス氏は、早ければ11月にもFRBが新たな資産買い入れプログラムを発表する可能性がある、との見方を示しました。このため、14日のNY市場では、8月のアメリカの小売売上高が意外にも市場予想を上回った(1日に発表された8月の米自動車販売は買い替え支援終了で大幅減となり、小売売上高には下ぶれリスクがあった)にもかかわらず、追加の金融緩和観測が台頭。10年物の米国債の利回りが前日比で0.07%も下がり、日米の金利差の縮小から、さらなるドル安・円高圧力が高まっていました。

三つ目の理由として、アメリカの下院歳入委員会で15日から2日間の日程で、中国の人民元問題についての公聴会が開かれるため。公聴会では、ガイトナー財務長官のほか、産業界の代表や通商問題の専門家が人民元問題について証言する予定。主要7カ国(G7)のメンバーとして、日本も、中国に人民元の切り上げを求めています。その手前、本来は日本独自の為替介入は実施しづらい状況にあります。アメリカの国会議員らが公聴会で、人民元問題を本格議論する直前のぎりぎりのタイミングで、政府・日銀はアメリカからの批判を少しでもかわすために、介入に踏み切った可能性もあります。

確かに、単独介入の効果や持続性について、疑問視する声もあります。為替相場の規模が大きくなったため、介入効果が以前より、弱くなったと見る市場参加者も多くなっています。日銀の白川方明総裁も7日に「当局が為替相場を自在にコントロールできるというわけではないこともご理解いただきたい」と発言しました。

財務省はかつて積極的に為替介入をした時期があったのですが、その頃と比べ、為替の市場が大きくなり、コントロールが難しくなったのは事実です。

財務省は2003年から2004年にかけて、総額35兆円のドル買い介入を行いました。この間、一日当たり最大で 1兆6600億円のドル買い介入を行う日もありました。

ただ、国際決済銀行(BIS)の最新の統計によると、世界の為替取引高は現在、1日あたりおよそ4兆ドル、日本円にして、およそ330兆円に及びます。

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ドル円だけでも、一日平均で5680億ドル、日本円で47兆円に及びます。

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たったの一日平均で、先ほどの2003年から2004年のドル買い介入の総額35兆円を大きくしのぎます。

2004年の時点から、為替相場の規模は倍以上、拡大し、介入効果は限定的になったかもしれません。しかし、今回、多くのマーケット参加者が「介入はない」「あっても、まだまだ先」と思っていた中で、介入を実施したため、大きな驚きを与え、一定の効果を上げています。アメリカの追加の金融緩和によるドル安圧力が強い中、今後も、中途半端な介入ではなく、継続的で大規模な介入が必要となりそうです。

今回の為替介入で驚いたのが、野田佳彦財務大臣が緊急記者会見で実施を発表したこと。以前、為替記者をしていたとき、韓国でも、シンガポールでも、マレーシアでも、当局は為替介入の実施の有無をコメントしないのが通例でした。あえてコメントしないことで、マーケットの当局に対する警戒心や疑心暗鬼を高め、一方的な為替の動きを防ぐ効果があります。しかし、今回、財務省は、為替介入の実施を発表することによって、拡大する為替相場の規模に対して、介入開始直後の少額の介入額でも大きな効果を上げようとする「アナウンス効果」を狙ったものとみられます。

さらに、今回の介入の注目点は、非不胎化の円売り介入であること。売り払った円を日銀が市場から回収する通常の不胎化介入に対し、非不胎化介入とは、売り払った円をそのまま市場に放置します。これはデフレ対策にもなります。日銀がこれまで躊躇(ちゅうちょ)していたバランスシートの拡大を認めることになり、日銀も「円高デフレ不況」の芽を摘む姿勢に変わってきているようです。 官邸主導で日銀も動いた、とみています。

足元の経済指標の悪化や株安を受け、アメリカのマーケットも、日本のマーケットも、当局の追加の金融緩和を期待する「催促相場」と化してきています。

金融緩和についていえば、サブプライム危機後、震源地のアメリカの方が日本よりも懸命に行ってきました。FRBは住宅ローン担保証券(MBS)や長期国債の買い入れを積極的に行いました。

アメリカと日本のこれまでの危機対応策を考えるうえで、マネタリーベース(通貨供給量)が参考になります。

リーマンショック前の2008年7月には、アメリカのマネタリーベースは89兆円、日本は87兆円とほぼ同じ額でした。

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しかし、リーマンショック後は、アメリカはマネタリーベースを一気に増やし、先月6月時点では、182兆円にまで及んでいます。一方、日本は97兆円にとどまっています。つまり、この2年間で、アメリカは100兆円近くマネタリーベースを増やしてきたのに対し、日本は10兆円しか上積みしてません。

この日米の極端なマネタリーベースの伸びの違いが、昨今の円高・ドル安の一因になっている、とみています。よくFRBがとっている姿勢は、空からお金をバラバラとばら撒く「ヘリコプターマネー」と呼ばれます。ヘリコプターとまではいかないまでも、アメリカが大きなバケツでドル札をマーケットにばら撒いているとしたら、日本は小さなコップで円の新札をちょびちょびとばら撒いているような感じです。

現在のように、日本とアメリカの金利差が極端に縮まってくると、通貨の供給量が為替相場に及ぼす影響はかなり高まっている、と考えられます。

著名投資家のジョージ・ソロスさんも、お金の供給量と為替相場にはある程度の相関関係があることに着目し、「ソロス・チャート」というテクニカルチャートを発明しました。

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左目盛にドル円のレート、右目盛に日本とアメリカのマネタリーベースの比率、つまり、日本のマネタリーベース/アメリカのマネタリーベースを記しています。

相対的にアメリカの方が、日本よりも、通貨供給量をぐっと増やしていることから、比率を示す青い線が急激に下がっています。これに伴って、ドル円も円高になってきている面があります。

輸出立国の日本にとって、行き過ぎた円高は、製品の高価格化で国際的な価格競争力を削ぎ、企業の収益を損ないます。海外で汗水たらしてせっかく稼いだ外貨も、外貨安・円高のため、円転した際に目減りしてしまいます。

日本の「通貨の番人」日銀がマネタリーベースを増やして、直接的にも、間接的にも、円高を阻止できる施策の余地は、アメリカに比べて、まだまだあると思われます。

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